全5回でお送りしている

「【シリーズ】動物病院のいま」。

前回までは
日本の経済動向やペット市場の現状を見てきました。

今回は「獣医師のいま」と題して、
獣医師や動物病院の現状について見ていきたいと思います。

1.動物病院数の推移

犬や猫の飼育頭数が減少傾向にあることは
前回までのブログで触れた通りです。
今回はまず、動物病院の数がどのように
推移しているのかを見てみましょう。

動物病院数の推移
農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況」

皆さんの実感としても
「最近動物病院が減ったなあ」という方は少なく
「また新しい動物病院ができているなあ」という方が
多いのではないでしょうか。

グラフの通り、
データ上でも動物病院の増加傾向が見て取れます。

地域によって若干の差はありますが、
全国的に増加傾向にあります。

・飼育頭数 ⇒減少傾向
・動物病院数⇒増加傾向


という大きな傾向はしっかり押さえておきたいですね。

※念のため農林水産省に確認したところ、
廃止届が提出された病院は上記の数からは
差し引かれているとのことでした。

2.獣医師数の推移

次に獣医師の人数の推移です。
今回は産業動物や公務員に従事する方は除いて、
動物病院で働いている先生方のみを見ていきます。
(院長、勤務医にかかわらずカウントされています)

個人診療施設(犬猫)で獣医事に従事する人数
農林水産省「獣医師の届出状況」

これは農林水産省が2年ごとに統計を取っているデータですが、
動物病院(個人診療施設)で働いている獣医師の数は
ここ最近も増加傾向にあることがわかります。

なお小動物臨床に従事している獣医師は
獣医師免許保有者のうち約40%を占めています。

次に毎年国家試験に合格して
獣医師になる方の数の推移です。

獣医師国家試験 合格者数
農林水産省 「獣医師国家試験の結果について」

グラフを見ると、
2015年こそ若干合格者数が減りましたが、
概ね1000名前後で推移していることがわかります。

動物病院での獣医師(特に院長先生)は、
明確な「定年」が存在しないお仕事ですので、
毎年獣医師になる人の数(合格者数)が変わらない現状では、
全体数は基本的に増加傾向を示すと考えられます。

またご存知の通り、
現状では大学の獣医学科の人気は非常に高く、
「獣医師のたまご」も、当面減少する見込みはありません。

大学の定員や合格者数が大きく変わらない限りは、
今後も獣医師数は増加傾向にあると考えてよいでしょう。



3.新卒獣医師の就職先の推移


では、国家試験に合格した新卒獣医師たちの進路は
どのようになっているのでしょうか。

獣医大学卒業者の就職状況の推移
農林水産省「平成28年4月 獣医事をめぐる情勢」

農林水産省調べの最新のデータによると、
近年では小動物臨床に進む卒業生が若干減少し、
公務員に進む卒業生が増えているのがわかります。
将来の景気に対する不安も大きく影響しているのでしょう。

この傾向を見て
「将来のライバルが減る」と捉えることもできますが、
一方で「動物病院の求人」の側面から見ると、
非常に頭の痛い問題です。

増加している動物病院が、
減少している就職志望者を
取り合う構図になっており、
典型的な「売り手市場」だと言えます。

勤務医の雇用や後継者探しをしたい動物病院にとっては
厳しい時代だと言っていいでしょう。

4.獣医師の男女比率

最後に動物病院で働く獣医師の男女比率を見てみましょう。
農林水産省が男女比率の公表を始めたのが2014年からですので、
2014年と2016年のデータを見たいと思います。
(調査は2年に1度のため、2015年のデータはありません)

2014個人診療施設(犬猫)の獣医師の男女比
2016個人診療施設(犬猫)の獣医師の男女比
農林水産省「獣医師の届出状況」

グラフを見ると、

・現在、動物病院で働く獣医師の男女比はおおむね 2:1
・やや女性が増加する傾向にある

ということがわかります。

現在の獣医学生は実に約半数が女性ですので、
今後獣医師の女性比率はますます高くなることが予想されます。

実際に当社の会員の動物病院様でも
女性勤務医の割合が高い病院も多いですし、
産休や育休を活用するママさん獣医師も
随分と増えてきたなと実感します。

一方で農林水産省の発表によると、
実に6%の女性獣医師が獣医療を離れている
というのが現状です。
今後女性獣医師の割合が増えていく中で、
いかに女性獣医師が長く活躍できる体制を
作るかということは、動物病院業界全体の
課題のひとつだと言えるのではないでしょうか。

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今回は最も身近である
動物病院や獣医師の動向について見てきました。

飼育動物が減少傾向にある中での

・動物病院数の増加傾向
・小動物臨床の獣医師の増加傾向

というデータは、すなわち
1病院あたりの動物数、1獣医師あたりの動物数が
減少し、供給過多になっていくことを示しています。

いわゆる「少ないパイの取り合い」に拍車がかかり、
この業界で激しい競争が当面続くことが推測できます。


また

・小動物臨床に進む学生がやや減少傾向
・獣医師の女性比率が増加傾向

というデータからは、求人・採用の工夫や
女性の活躍体制の整備も含めた雇用体制の充実が
求められる傾向がより強まっていくであろうことが
推測できます。


なお、求人の競争激化については
動物看護師やトリマーについても同様
で、
多くの病院が少ない志望者を取り合う
「売り手市場」の状況になっています。

例えば「新卒の男性獣医師しか採らない」とか
「専門学校を出た看護師しか採らない」いう方針で
長年やってきた動物病院があるとすれば、
その方針を一度見直すべき時期がきているのかもしれませんね。

ここまで4回のブログを通して、
日本経済からペット市場、動物病院や獣医師についての
現状把握と将来の展望を行ってきました。

では、そのデータをどのように受け止めて、
動物病院をどのように運営していくべきなのか。
次回、最終回のブログで私なりの考えを書いてみたいと思います。

<出典・引用・参考等>

農林水産省 飼育動物診療施設の開設届出状況


農林水産省 獣医師の届出状況

農林水産省 獣医師国家試験の結果について

農林水産省 獣医事をめぐる情勢(平成28年4月)
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動物病院経営パートナー En-Jin
(株式会社エンジン)

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ノウハウや理屈を教えるだけではなく実務を推進。
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病院全体がイキイキと同じ方向に進めるよう、
スタッフマネジメントをサポートします。

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