全5回でお送りしている
「【シリーズ】動物病院のいま」。

これまで日本経済の動向、ペット市場の動向、
動物病院や獣医師の動向などを見てきました。

最終回の今回は、
これまで見てきた業界動向を踏まえつつ、
これからの動物病院に求められることを
皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

1.動物病院の業績の「二極化」

これまで4回のブログでは、
繰り返し以下のトレンドに触れてきました。

・人口   ⇒減少傾向
・飼育頭数 ⇒減少傾向
・獣医師数 ⇒増加傾向
・動物病院数⇒増加傾向


このようなトレンド(流れ)が続くと
いったいどのようなことが起こるでしょうか。

単純に考えると、動物病院どうしの競争が激化し、
多くの病院の業績が低下することが予想されます。

しかし、実際には話はそれほど単純ではありません。

確かに近年売り上げが低下している
動物病院が増えています。
また新たに開業する病院は特にその影響を受けていて、
かつてに比べると開業してからの売上の伸び方が
鈍化する傾向にあります。

しかしその一方で、
売上を維持したり、伸ばしている病院も
決して少なくはないのです。


これはいわゆる「二極化」という現象です。
動物病院業界に限らず、近年の国内市場では、
二極化の傾向が見られる業界が増えています。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

業績の二極化の要因として見過ごせないのは
「飼育頭数が減りつつも、ペットの飼い主
ひとりあたりが獣医療に使うお金は増えている」
という事実です。

(詳細は前回のブログをご参照ください)

ペット文化の成熟、ペットの長寿化、
獣医療の高度化などにより、
ペットを飼っている方は、
かつてよりも獣医療にお金をかける傾向があります。
そのため、そのような飼い主が通う動物病院では、
飼育頭数の減少にもかかわらず
売上を維持・向上することができているのです。

この傾向をよく見極めて手を打っていくことこそが、
これからの動物病院の活路となると私は考えています。

2.動物病院の「来院頭数」と「売上」の関係

もう少し詳しく見ていきましょう。

動物病院の「来院頭数」と「売上」の関係は
大きく以下の4通りに大別することができます。

A. 来院頭数「増」、売上「増」

B. 来院頭数「増」、売上「減」

C. 来院頭数「減」、売上「増」

D. 来院頭数「減」、売上「減」

◆来院頭数×売上 マトリクス図
来院頭数×売上

もちろん最近でも、「A」のように
来院頭数、売上ともに伸びている動物病院もありますが、
ペットの飼育頭数が減って、動物病院数が増えている現状では、
「A」の状態を維持することは必然的に困難になります。

そこで、「C」のように
来院頭数が減少する中でも売上を伸ばすために何ができるか
を考えることが大切になってきます。


単純に値上げをするというだけではなく、
自院の強みをどれだけ掘り下げられるか、
飼主様にいかに獣医療に関心をもっていただき
潜在的なニーズに呼びかけていくことができるか などなど。

そのようなことをいかに考え、実行できるかが
飼育頭数減少時代の動物病院にとって
非常に大切なことだと思います。

3.動物病院の「売上」と「利益」の関係

ここでひとつ、別の観点から問題提起をしたいと思います。

果たして、
売上を伸ばすことだけが、
動物病院の成功なのでしょうか?


動物病院の「売上」と「利益(=売上-費用)」の関係も
以下の4通りに大別することができます。

a. 売上「増」、利益「増」

b. 売上「増」、利益「減」

c. 売上「減」、利益「増」

d. 売上「減」、利益「減」

◆売上×利益 マトリクス図
売上×利益

「売上が増えるに越したことはない」と考えがちですが、
売上を伸ばすために費用(仕入れや人件費など)が
かさみ過ぎると、
「b」のように
売上は増えているのに利益は減少する
という状況になってしまいます。
(これは決して珍しいことではありません)

一方で、「c」のように
売上自体は減ったとしても、
上手にコストカットをすることにより
利益率の高い経営をすることも可能です。
(これも珍しいことではありません)

ただがむしゃらに売上を増やそうというのではなく、
自院をどのような動物病院にしていきたいのかをよく考え、
売上と利益の関係を見ていくこともまた、
これからの動物病院運営に不可欠なことだと思います。


 

4.自院の(院長先生の)ゴールは何か?

これまで動物病院業界の動向を見てきたうえで
このようなことを書くのは
少し逆説的かもしれませんが、

業界動向や時代の流れを気にすることよりも
自院の強みや弱み、
そしてその動物病院がある地域のペット文化の成熟度、
人口やペット数の増減、競合病院の特徴などを踏まえたうえで
院長先生がご自身の動物病院をどのようにしていきたいのかを
よく考えられることが、何よりも大切だと私は考えています。


私がこれまでにサポートさせていただいてきた動物病院でも、
方針や目標は実に様々です。

「来院数、売上ともにできるだけ伸ばしていきたい」
「来院数は減ってもいいので、売上は現状を維持したい」
「来院数、売上ともに少しずつ縮小化していきたい」
「売上や利益は度外視してもいいから、
地域貢献や動物愛護に力を入れたい」

これらすべての考え方が“正解”であり
その病院にとっての“ゴール”だと思います。


「【シリーズ】動物病院のいま」と題して
ペット業界、動物病院業界の動向を見てきましたが、
その情報に振り回されるのではなく、
自院やご自身の考え方と向き合っていただくための
ひとつの材料とするのが
ちょうどよいスタンスなのではないかと思います。

そしてこのブログがそのきっかけになるのであれば、
これほど嬉しいことはありません。

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私は(当社は)、動物病院の運営をサポートする立場として
「これをしておけば大丈夫」と特定の手法を押し付けたり、
自社の考え方やノウハウにとらわれすぎることのないように
気を付けたいと常々考えています。

それは上述した通り、
動物病院の数だけ、院長先生の数だけ、
目指すべきゴールがあると考えているからです。

当然売上を上げるための様々な手法はありますが、
その一方で
「商売的ないやらしさは出したくない」
「うさんくさく見られるのは避けたい」
「近隣の病院や獣医師会でのお付き合いもないがしろにしたくない」
といった院長先生の声も大切にしなければならないと考えています。

また当たり前のことですが、私も含めて
コンサルタントは魔法使いでも予言者でもありません。

私に院長先生や動物病院をサポートできることがあるとすれば、
それは先生の考え方や病院の向かう方向性を整理するお手伝いをし、
そのために必要となることを柔軟にご提案し、
そしてそれを机上で論じるだけではなく
実行にいたるまでの実践的なサポートをすることだと考えています。


軒並み動物病院の業績が伸びていた時代は終わりを迎え、
明確な飼育頭数減少時代に突入しています。
それでもなお、動物を飼うことの普遍的な魅力は存在し続け、
それを支える動物病院も必要とされ続けると私は考えています。

動物病院の進む方向性がますます多様化する中で、
当社も常に学び続け、そして悩み続けることを大切にし、
実践的なサポートをしていければと考えています。

最後までお読みいただき、
本当にありがとうございました。

これからも少しでも皆様の参考になる情報を
お届けしていきたいと思います。

<【シリーズ】動物病院のいま 過去のエントリ>

第1回 「業界動向」との向き合い方を考える

第2回 日本経済のいま

第3回 ペット市場のいま

第4回 獣医師のいま

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動物病院経営パートナー En-Jin
(株式会社エンジン)

<企業理念>
1.院長先生の想いを推進する「エンジン」に
ノウハウや理屈を教えるだけではなく実務を推進。
「やりたいこと」を形にします。

2.動物病院のメンバーが「円陣」を組めるように
病院全体がイキイキと同じ方向に進めるよう、
スタッフマネジメントをサポートします。

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飼主様・スタッフ・外部専門家などとのご縁をつなぐ
架け橋になります。

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