全5回でお送りしている
「【シリーズ】動物病院のいま」。

前回は「日本経済のいま」と題して
日本の景況感のおさらいと将来の展望をしました。

今回は動物病院と密接に関係がある
「ペット市場」に目を向け、
現状の把握をしていきたいと思います。

私が動物病院の経営サポートのお仕事をしていることを
異業種の方にお話しすると、

いまだに

「ペットブームだし景気もいいでしょう?」
「少子高齢化でお年寄りがペットを飼うから
動物病院は儲かるんじゃないですか?」

という反応をされることが多いです。

きまって
「いえいえ、今はそんな楽な時代ではないんですよ」
という話をすることになります。

ペット業界の景気が良く見えるのは
おそらく、

・ペットを取り上げるテレビ番組などがとても多い
・スーパーなどでのペット関連グッズが充実している
・街で見かける動物病院が増えている
・猫ブームで世間が賑わっている

⇒「ペットの世界って景気が良さそう!」

となっているからだと思います。

でも実際には、、、

・ペットを取り上げるテレビ番組などがとても多い
⇒(現実は)動物を出すと視聴率が取れるというだけ

・スーパーなどでのペット関連グッズが充実している
⇒(現実は)商品の高級化や細分化が進んでいるだけで
市場そのものが大きく伸びているわけではない

・街で見かける動物病院が増えている
⇒(現実は)需要に対して供給が増えて競争が激化している

・猫ブームで世間が賑わっている
⇒(現実は)今のところブームの恩恵を受けているのは
写真集、猫グッズ、猫カフェなどが中心。
生体販売や動物病院へのプラスの影響は限定的

というのが私の実感です。

ここからは具体的なデータにも目を向けながら
ペット市場を見ていきたいと思います。

1.ペットの飼育頭数の推移

やはりまず確認しておきたいのは
日本で飼育されている犬や猫の頭数の推移です。

以下のグラフをご覧ください。

犬の推計飼育頭数

猫の推計飼育頭数
(一般社団法人ペットフード協会)

グラフをパッと見るだけでも
犬の飼育頭数は
はっきりと減少傾向にあることがわかります。
ピークの2008年に比べると
実に約24%も減少しています。

一方、昨今の猫ブームの影響もあってか、
猫の飼育頭数は「横這い」といったところですが、
それでも全体的には減少傾向と言っていいでしょう。

いまのところ猫ブームは、
グッズや関連本、猫カフェなどが恩恵を受けている段階であり、
生体数を大きく増加させるような
インパクトを与えるまでには至っていない
というのが実情でしょう。

もちろん地域によって若干の差はあると思いますが、
「犬は減少、猫は横這い」というトレンドは
おさえておきたいですね。


2.ペットの飼育意向の推移

次に以下のグラフを見てみましょう。
これは、一般社団法人ペットフード協会による
今後「飼いたい動物」についての
意識調査の結果です。

犬を飼いたい
猫を飼いたい
飼いたいペットがない
(一般社団法人ペットフード協会)

動物に関する仕事に携わる者としては
寂しい限りですが、
「ペットを飼いたい」という意向は
年々低下する傾向にあります。

犬を飼いたい人は顕著な減少傾向にあります。
猫を飼いたい人は2015年こそ少し持ち直しているものの、
ピーク時に比べると減少しています。

そして何より、
今後「飼いたいペットが何もない」という人の割合が
年々高くなっており、
半数以上の人がペットを飼うことに興味がない
という事実はおさえておく必要があります。

3.ペット離れの原因を探る

飼育頭数の減少や飼育意向の低下の
大きな原因としては
以下のようなものが考えられます。

(1)(人間の)少子高齢化

少子高齢化によるマーケットへの打撃は
ペット業界に限ったことではありませんが、
特にペット業界は

・高齢者がペットの面倒を最期までみることができない年齢になり、
「次の1頭」を飼わなくなる。

・子どもの減少により、
情操教育目的でペットを飼う人が減る。

という形で少子高齢化の影響を受けやすい傾向にあります。

(2)生活環境の変化

・祖父母と暮らす人の減少

・共働きの増加

・晩婚化

・集合住宅の増加(一戸建ての減少)

など、最近のライフスタイルでは
ペットを「飼いづらい」人が増えていると
言っていいでしょう。

「昼間誰も家にいないから」
「散歩に行く余裕がないから」

等の理由で
ペットを飼うことを検討できない人が
増えていることが推測されます。

(3)レジャーの多様化

いまやペットを飼うということは
単なる「レジャー」ではありませんが、
やはり他のレジャー(余暇の過ごし方)が多様化すると
相対的にペットを飼う人が減るのも事実です。

昔は誕生日やクリスマスに「ペットを飼ってほしい」と
親にねだる子どもも多かったと思いますが、
今はどうでしょうか?

インターネットやスマホのゲーム、
塾や習い事などに忙しい子どもが増え、
相対的にペットを欲しがる子どもが
減っているのかもしれません。
(皮肉なことに動物を飼う「ゲーム」は人気があるようです。)

もちろんレジャーの多様化は
子どもに限った話ではありません。
大人の余暇の過ごし方も以前より多様化しており、
ペットを飼うということまで
時間やお金が回らない家庭が増えている
ということが推測されます。

このような要因が絡み合った結果、
ペットの飼育頭数や飼育意向の低下が
現実として起きています。

では今後の日本において、

・少子高齢化は止まるか?
・二世帯住宅が増えたり
専業主婦が増えたり
結婚が早まったりするか?
・レジャーの多様化がおさまり
余暇の過ごし方の選択肢が減るか?

というと、いずれも非現実的ですよね。

ペットの飼育頭数や飼育意向は
基本的には今後も低下傾向にあり、
どこで底を打つかまだわからないと
考えておいた方がよいでしょう。


 

4.ペットの年齢分布

前回までのブログも含めて、
人間の世界の少子高齢化について
何度か触れてきましたが、
ペットの世界の年齢分布も見ておきたいと思います。

犬の年齢分布
猫の年齢分布
(一般社団法人ペットフード協会)

特に犬については
高齢化の波が押し寄せていることがわかります。
直近の数字でシニアとされる7歳以上の割合は、
実に54%を超えます。
動物病院の経営について考えるときにも
犬の高齢化を看過することはできません。

一方、猫は近年に関しては
やや高齢化がストップしています。
上記「1」で猫の飼育頭数は横這いであると述べましたが、
それが高齢化の歯止めに影響を与えていると考えられます。

とはいえ、当然のことながら
全ての犬や猫が今後も歳をとっていきますので、
新たに仔犬・仔猫を飼う人が減少している以上、
犬・猫の高齢化がさらに進んでいくことになります。

人間の少子高齢化が人口減少と表裏一体であったように、
犬・猫も少子高齢化が進むということは、
亡くなっていく子たちも多くなるということで、
将来的な頭数の減少と表裏一体なのです。


5.ペットにかけるお金

最後に、日本の家計がペットにかけている
支出金額の推移を見てみましょう。

以下のグラフが示す通り、

・動物病院代
・ペットフード代
・他の愛玩動物・用品・サービス


のいずれも、
2013年から2015年にかけて
支出金額が増えています。

ペット関連の支出の推移
(総務省統計局 家計年報)

飼育頭数が減少する一方で、
家計がペット関連で支出する金額は
年々大きくなっているのです。

またペット保険の契約件数は
近年は毎年前年比10%以上の伸びを見せており、
普及率がまだ10%未満と低いことから、
今後もある程度の伸びしろがあると予想されています。

ペット文化の成熟とともに

・高度な獣医療
・細分化されたプレミアムフードや療法食
・ペット保険

などをペットのオーナーが求めるようになり
供給も伴うことで、飼育頭数の減少にもかかわらず
ペット市場そのものはその規模を維持しています。
(正確にはわずかに拡大しています。)

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今回はペット市場について見てきました。

飼育頭数の減少は多くの院長先生が認識されていたと思いますが、
それにもかかわらず、家計のペット関連支出が増加しているという
のは意外に感じられた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

軽いノリでペットを飼うような一時期のペットブームが去り、
ペット文化が成熟し、ペットの「家族化」が進むことにより
ペットオーナーがより良いものを求める時代になったのだと思います。

動物病院を運営していく上でも
この傾向を頭に入れておくことは
とても大切だと思います。

次回、第4回は「獣医師のいま」と題して
動物病院数や獣医師数の推移など、
より私たちに近い世界を見ていきたいと思います。

<出典・引用・参考等>
ペットフード協会様の調査は、
今回紹介したもの以外にも示唆に富むものがたくさんあります。
ホームページでデータが閲覧できますので
ぜひ一度ご覧になってみてください。

一般社団法人ペットフード協会 全国犬猫飼育実態調査

総務省統計局 家計調査年報

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